いつも診察時に、お母さまにお話しているホームケアについて、まとめてみました。
当クリニックかかりつけの患者さんもご確認の意味で、一度目を通しておいていただくとよいと思います。
また、別章育児の悩み編はいろいろな子育て中の疑問にお答えしています。本章とあわせて、ぜひお読みください。
発熱をどう考えるか
熱性けいれんについて
お風呂、プールに入ってよいのは
保育園に行ってよいのは
嘔吐・下痢の時に
赤ちゃんのくる病
発熱をどう考えるか
●発熱とは
今まで元気だった子どもが急にぐったりしたので、念のため体温を計ったら40℃!びっくりしますよね。子どもも赤い顔をして苦しそうです。どうして、熱が出るのでしょう。
そもそも、人間は哺乳動物の一つです。哺乳動物は恒温動物のグループに分類され、春夏秋冬、体温を一定に保って活動しています。人間の場合、36℃から37℃位が体温の幅となります。子どもは少し高めですが、いずれにしろわずか1℃位の幅の間に、体温は精密にコントロールされているのです。
この体温を精密にコントロールしている場所が、脳の中にある視床下部(ししょうかぶ)というところです。発熱とはその視床下部での体温設定が、感染症の影響で1~3℃上がった状態をいうのです。
●発熱の意味
熱が出ると、ひとの体内に侵入した病原体は増殖しにくくなり、またヒトの攻撃力(免疫反応)も強まります。したがって、熱が出るということ自体は悪いことではなく、ひとの身体が病原体と元気に戦っている証拠なのです。
そのため、熱は無理に下げる必要はありません。
38℃でも40℃でも、発熱という状態には変わらず、40℃だからひどく悪いのだと心配されることはありません。まして、40℃だから頭がおかしくなる、などということは絶対にありません。
お母さまは発熱しているお子さまが比較的快適に過ごせるよう、いろいろと気を配り、一生懸命に病気と戦っているお子さまを応援してあげたいものですね。
●発熱時の生活の注意
着せ方
ふだんと同じか1枚少なめに。厚着をさせると熱がこもり、子どもはがまん大会の選手のようにフーフーますます苦しむことになります。(夏はクーラーを少しかけてあげても良いでしょう。)
水分補給
高熱になると、どうしても食欲は落ちるもの。赤ちゃんには、乳児用イオン飲料(経口補水液=OS1など)などを、少しずつ与えましょう。
少し大きなお子さまでも、水分補給は大切です。水分は十分に与えて下さい。
冷やし方
氷水やアイスノンをタオルに巻いて、わきの下を冷やしてあげると、解熱効果が期待できます。
冷却シートは、お子さまが気持ちがよさそうなら、貼ってあげても良いでしょう(ただし、シートが熱を持ったら、取替えてください)。
また、ぬれたタオルで体を拭いてあげると、お風呂の代わりにもなるし、多少の解熱効果が期待できます。
ひきつけ
高熱時、一番こわいのがけいれん(ひきつけ)です。
しかし、ふつうは5分以内でおさまることが多いので、あわてず持続時間を計っておきましょう。また、手足が左右対称にふるえているか、チェックしましょう(熱性けいれんでは左右対称に動くことが多いです)。熱性けいれんの章を参照にして下さい。
ひきつけを起こしているときに、口の中に物を入れてはいけません(障害物となって、窒息する危険があります)。
おふろ
37.5℃以下に熱が下がっているときは、すばやくシャワーで身体を清潔にしてあげましょう。体調が良ければ、入浴させてもよいでしょう。最初は湯冷めをしないよう、手短かに行いましょう。
欧米では発熱している子どもの熱を下げる手段として、水風呂に入れるようだ、などとしたり顔で吹聴する人がいますが、愚かな振る舞いで虐待に類する行為です。決してまねをするべきではありません。(何でも”欧米では~”と偉そうにお説教を垂れる徒輩がいますが(特にマスコミに多い)、ほとんどは付け刃の知識です。)
別章 育児の悩み・発熱のケア編もあわせてご覧下さい。
熱性けいれんについて
●熱性けいれんとは
熱性けいれんは、生後6カ月ぐらいの赤ちゃんから5歳までの子どもにみられる、熱によるひきつけ(けいれん)をいいます。
日本人の大人の10人~20人に1人は、一度は子どものころ熱性けいれんを起こしたことがあるといわれるほど、比較的よくみられる病気です。
しかもこのけいれんは数分で止まり後遺症も残さないので、診断さえ正しければあまり心配されなくても良いと思います。
●熱性けいれんの症状
熱性けいれんは、熱の出始めに多く起こります。その症状は手足をピクピクとふるわせる間代(かんたい)性けいれんと身体がガチガチにこわばらせてしまう強直(きょうちょく)性けいれんの2つのタイプがあります。
けいれん時には、眼を上転させたり(黒眼がスーと上に上がって、白眼になってしまう)、あわを吹いたりします。そして意識がなくなります。呼んでも応答はありません。
まれに、呼吸が止まり、口の周りが紫色(チアノーゼ)になることがありますが、呼吸はすぐに戻り、チアノーゼは消えるので心配はいりません。
熱性けいれんは普通数分で止まります。けいれん後、赤ちゃんは寝てしまうことが多いようです。
●熱性けいれんのとき、注意すること
熱性けいれんは、熱の上がりぎわに多く起こります。逆にひきつけを起こして、体温を計って初めて高熱に気付かれることもあります。
お子さまがひきつけを起こしていることに気付いたら、あせらずまずお子さまの状態をよく観察しましょう。
ひきつけはほとんどの例で5分以内に止まります。ひきつけの持続時間と、ひきつけの時の手足の動き方(左右対称かどうか)は後で大切な情報になるので、注意して観察しましょう。
●熱性けいれんのとき、してはいけないこと
お子さまのけいれんに気付くとお母さまはパニックに陥ってしまいますね。
でも、はしやスプーンなどを絶対口のなかに押し込んではいけません。口の中を傷つける可能性があり、きわめて危険です。また、お子さまを強くゆさぶるのもよくありません。吐きそうなら顔をそっと横に向けてあげればよいでしょう。
●なぜ、熱性けいれんは起こるのか
人が生まれたとき、脳の中の神経(細胞)同士を結ぶアンテナは裸線に近い状態です。それが大体3歳ぐらいまでの間に、ミエリンシース(鞘)という絶縁体でカバーされ、神経を結ぶネットワークは保護されながら発達していくのです。
熱性けいれんは、この脳のネットワークが絶縁体で保護される前に、発熱などの異常な刺激でスパークして起こってしまったもの、と考えればよいでしょう。そのため、熱性けいれんは脳が成熟する4歳を過ぎると多くは起こらなくなるのです。
●病院へ行く目安
けいれんが15分以上続く場合は、救急車を呼んで救急病院を受診しましょう。
また、6カ月未満の赤ちゃんがけいれんを起した場合、髄膜炎、脳炎の可能性も否定できないため、至急病院を受診したほうが良いでしょう。
けいれんが手足の一方だけだったり、けいれんがおさまった後も麻痺が残るようなら、熱性けいれんではない脳の病気の可能性が強いので、病院を受診しなければなりません。
これらのケースでは入院して治療したり、経過をみたりしなければならない可能性も強いので、受診する病院は入院設備を持った都立荏原病院、都立広尾病院、日赤医療センター、昭和大学病院などがよいと思います(NTT東日本関東病院は、入院は受け入れておりません)。
●熱性けいれんの治療
熱性けいれんは、ジアゼパム座薬(ダイアップ坐剤)を使用すれば、予防することができます。ただし、最近では熱性けいれんを1回起しただけでは、ダイアップ坐剤は使用せず、経過を見ることが推奨されています。
ダイアップ坐剤の使用方法は、37.5℃以上の発熱に気付いたら、1回目の挿入をします。そして、38℃以上の発熱が続いていれば、8時間後にもう1度坐薬を挿入します。
1回の有熱期間に2回この坐薬を用いれば、熱性けいれんはほぼ予防できると言われてきました。
近年、ダイアップ坐剤の使用については、日本小児神経学会から適応基準(熱性けいれん再発予防のための座薬使用の適応基準)が示されており、当クリニックもこの基準に基づいてダイアップ坐剤の処方を行っています。
また、ダイアップ坐剤は挿入後、ふらふらする副作用がよく見られます。当クリニックでは、ダイアップ坐剤を使用する場合はその使用法と期間については、お母さまとよくご相談して個々のお子さまごとにケースバイケースで決定しています。
また、ダイアップ坐剤は挿入後15分ぐらい経たないと、効果が出てきません。したがって、けいれんをただちに止める働きは期待できません。そのため、当クリニックではけいれんを緊急で治療しなければならないときは、ミダゾラムを使用することもあります。
保育園に行ってよいのは
●登園禁止のある病気の場合は
麻疹、風疹、水痘、流行性耳下腺炎、インフルエンザ、プール熱(咽頭結膜熱)、新型コロナウイルス感染症は、それぞれの登園できない期間が指定されています(具体的な登園禁止期間は、それぞれの病気のパンフレットをご参照下さい)。
保育園にお子さまを預けられないことは、いろいろな面で大変だと思いますが、自分の子どもの病気はきちんと治し、我が子もよその子も、等しく伝染病から守ってあげられるよう、お母さま方のご配慮をお願いしたいと思います。
●普通のかぜ、胃腸炎の場合は
37.5℃以上熱がある場合は、保育園、幼稚園はお休みさせましょう。下痢・嘔吐がひどく、満足に食事ができない時も、ご家庭で水分や消化の良い食べ物を与えて、様子をみたほうが良いと思います。
無理に登園させても、園で発熱し呼び出しがかかり、結局お迎えに行くことになります。また、お子さまも、保育園ではほかの園児とどうしてもからんでしまい、十分な安静は保てません。肺炎、脱水などへの進展も心配です。
発熱している間はゆっくり家庭で休ませるか、病児保育をご利用ください。
嘔吐・下痢の時に
●嘔吐とは
嘔吐とは、胃内容物を食道と胃が協調して、体外に捨て去る(吐き出す)ことをいいます。
これは、からだに害があるものを体外に排除する働きと考えられ、完全には止めない方がよい場合もあります。
しかし、子どもは嘔吐が続くと、容易に水分、イオン(電解質)が失われ、脱水に陥りやすいので、お子さまの状態に応じた家庭でのケアが特に大切です。
●下痢とは
下痢とは、排便の回数が多く、便が水っぽい状態をいいます。
ただ、赤ちゃんのなかには、ふだんからウンチがやわらかく、水っぽいウンチをするお子さまもいます。
そのため、病的な下痢とは、ふだんに比べて便がやわらかいか水様で、おなかを痛がったり、食欲が落ちるというような病的な症状を伴うもの、と考えて下さい。
●嘔吐しているときのケア
頻回の嘔吐のためにクリニックを受診すると、吐き気止めの坐薬(ナウゼリン坐薬)が処方されます。
坐薬をもらって帰宅したら、すぐにお尻から挿入しましょう。坐薬挿入後は、30分は安静にして下さい。
下痢がひどいときは坐薬挿入後、排便とともに坐薬が出てしまうことがあります。なるべく排便後に挿入するようにします。もし挿入後2分以内に坐薬が出てしまったら、もう一度入れ直しましょう。
坐薬挿入後、30分が経過したら、なるべく早く水分をとらせます。
最初は母乳や経口補水液(自家製、OS1、ソリタT2顆粒など=詳細後述)を5mlほど飲ませてみます。大丈夫そうなら、さらに5分位様子をみて、もう一度5mlを与えます。
今度も大丈夫のようなら、5~10mlの水分を5~10分おきに与えてください。いやがって飲まない時や、すぐに嘔吐してしまう場合は、さらに30分は絶食しておなかを休めます。それから、経口補水液を再開して下さい。
経口補水液は少しづつ頻回に与えるのが大切です。
20ml以上一気に与えると胃が受けつけず、吐いてしまうからです。最初の4時間に与える水分の目安は体重に50~100かけた量を目標とします(10kgのお子さまなら500mlから1000mlを目標にします)。
以前は嘔吐している時は数時間絶食すると良いとされてきましたが、現在はなるべく早く経口補水液を少量頻回に与えるほうが早く回復する言われています。
4~5時間以上たって、目標とした水分が飲めて状態が落ち着いてきたら、なるべく早く食事を与えます。ふだん与えている食事の中から消化の良さそうなものを選んで与えます。
お粥、パン、うどんなどを少量ずつ与えてみましょう。(嘔吐があるときは、下痢を合併していることが多いので、便の状態にも注意しましょう)与えてよい食物の固さは、大体便の固さと同じぐらいを目安にすると良い、といわれています。
●下痢しているときのケア
激しい下痢が何日も続くと、子どもの体内から多量の水が失われ、代わりの水分を補給できないと脱水症に陥ってしまいます。
「飲ませるから、下痢をする」のではなく、「下痢をして水分が失われるから、もっと水分を補給しなければならない」と考えましょう。
尿量が極端に減れば、点滴によって水分・イオンの補給が必要になります。お子さまにできるだけ経口補水液を与えて下さい。
もしも、お子さまのおしっこの量が少なくなり、ウトウトしがちになる、肌がかさかさしてきたり、唇が乾いて、苦しそう、興奮する、泣いてばかりいる、などの症状が現われたら、脱水を疑わなければなりません。すぐに病院を受診しましょう。
また、下痢がひどいため腸の粘膜が傷つき、ここから分泌される乳糖分解酵素の働きが低下し、糖分(乳糖)を吸収できないためだらだらと1週間以上も下痢が続くことがあります(続発性乳糖不耐症という)。この場合、当クリニックは乳糖分解酵素のお薬を処方しています。
●下痢しているときの食べ物、飲み物の注意
母乳
母乳はそのまま与えます。下痢の時でも飲ませて構いません。
粉ミルク
粉ミルクは薄めず、そのままの濃度で与えます。薄めると浸透圧が変わり、かえって赤ちゃんの腸を痛めてしまいます。
経口補水液
経口補水液とは、イオンと糖分が適当な割合で含まれている飲料をいいます。自宅でも作れます(湯冷まし1000mlに砂糖40gと食塩3gを混ぜ、レモンの絞り汁を加える)。
経口補水液OS1(大塚製薬)、アクアライトORS(和光堂)、などを購入することもできます。ポカリスエットなどのスポーツ飲料は、糖分が多く、電解質が薄いため、赤ちゃんの下痢嘔吐のケアとしては不適です。
また、当クリニックで処方する、ソリタT2顆粒も経口補水液として用いることができます(味はまずいので、レモンで風味をつけるとよいでしょう)。
離乳食
下痢がひどいときは離乳食はお休みし、まず水分補給に集中しましょう。下痢が続いていても、水分が十分取れ、おしっこが普通通りに出ていれば、通常の離乳食を与えてかまいません。
下痢回復期の食事
お粥、パン、やわらかく煮たうどん、卵類、豆腐、じゃがいも、野菜スープなどがお勧めです。離乳食をおさらいするつもりで、固めの食事に戻していきます。
あげてはいけない食べ物
牛乳はおなかの負担になるので、お休みしましょう。極端に脂肪が多いもの(揚げ物、フライドポテト)や極端に甘いお菓子類もひかえましょう。
●お尻は清潔に
乳幼児は下痢でお尻があれるので、まめに湯で洗ってあげるか、ぬれたタオルでそっとていねいに拭いてあげましょう。
それでもお尻のあれがひどいときは、オムツかぶれの軟膏が必要です。手持ちの軟膏が無ければ、最も適した軟膏を処方致します。