インターネットで拡散されている、不確かな「情報」の検証
コロナワクチンについて現在インターネット上では、出所不明の怪情報が飛び交い、多くの保護者の方を惑わせ、混乱させているようです。
これらの怪情報に影響されたためか、最近、ワクチンを受けることが心配だというお母さまからのご相談も増えてきています。そのため、これらの情報に対する医学的検証を行い、当クリニックの見解を示します。
1.mRNAワクチンのRNAが、ヒトの遺伝子に組み込まれ、子孫に悪い影響を与える。
生物の細胞は、細胞核内に存在するDNA(デオキシリボ核酸)が、mRNA(リボ核酸)を作り、このmRNAが細胞核から細胞質に移動し、リボゾームというタンパク製造工場で蛋白質を合成します。このDNA→RNA→蛋白質という流れを、セントラルドグマといい、高校生物でも学習したと思います。
非常にわかりやすい解説があるので、こちらをご覧下さい。(映像授業Try ITより)
→【生物基礎】 遺伝子7 RNAについて
→【生物基礎】 遺伝子8 セントラルドグマ:翻訳
mRNAワクチンは、コロナウイルスのmRNAを構成する塩基を人工的に合成し、壊れないようにナノ粒子という油の膜で包み込んで、ヒトに接種するものです。脂肪の膜で保護しておかないと、ワクチンのRNAは脆弱ですぐ壊れてしまうからです。
*そもそもウイルスは、遺伝子(RNAかDNA)を蛋白の殻(カプシド)と油の膜(エンベロープ)が包んでいる構造です。ワクチンのナノ粒子は、ウイルスのエンベロープに似た働きをするのですね。(→ウイルスの構造)
このRNA断端は、細胞質内に留まり、細胞質内にあるヒトの成分を勝手に使って、ウイルスのトゲ(スパイク蛋白)の出来損ないを作ります。細胞質内で作られたスパイク蛋白は、細胞外に放出され、ヒトの抗原提示細胞(ヒトのパトロール部隊)に「異物」(敵)として認識され、免疫担当細胞(CD4陽性Tリンパ球)に「敵」情報として伝えられ、コロナウイルスに対する免疫が発動するようになります。(下図)
ファイザー新型コロナワクチンにかかわる説明資料ーmRNAワクチンについてー
ワクチンのmRNAは細胞核内に侵入することはできないため、ウイルスのRNA断端がヒトDNAに組み込まれ、長く遺伝情報を保ち続けるなどということは、基本的にありえません。
ところが、レトロウイルスの仲間であるHIV(Human Immunodeficiency Virus;ヒト免疫不全ウイルス。エイズのウイルスです)は、極めて特殊なウイルスで、自分のRNAを元にDNAを作り出すことができるのです。
ワクチン反対派は、「エイズのウイルス(HIV)だって、RNAからDNAを作れるのだから、コロナワクチンのRNAだってヒトのDNAに組み込まれるはずだ!」と鬼の首でもとったように、声高に騒いでいます。
この主張を検証するために、まずレトロウイルスであるHIVの増殖を少し詳しくみてみましょう。(図と増殖の説明は、JaNP+:HIV増殖のメカニズムを知るから転載、引用させていただきました)
このHIVのRNAからDNAが作られる反応を逆転写反応といい、HIVはヒトに感染すると、ヒトの白血球の一つであるTリンパ球(CD4陽性Tリンパ球)に侵入します。
そして、自分の1本のRNAから逆転写反応によって、二本鎖DNAを合成し、このDNAは寄生しているTリンパ球の核内に移動します。そして最終的に核内のDNAに組み込まれていきます。
このRNAからDNAが作られる反応は逆転写反応といい、この反応が起るには、逆転写酵素が必要です。
➊ 吸着・融合
HIVの表面から出ている突起が、まずCD4細胞の表面にある「CD4受容体」と結合する。さらにもう1つの受容体(補助受容体)と結合すると、HIVとCD4細胞は融合する。
➋ 逆転写
HIVの中にあった遺伝子(設計図)とそれを複製するための酵素が、CD4細胞の中で活動を始める。HIVの酵素は「RNA→DNA」という通常とは逆の方向で遺伝子を転写(コピー)するために「逆転写酵素」と呼ばれている。
➌ 組込
HIVの酵素「インテグラーゼ」が、宿主のDNAにHIV由来のDNAを組み込む(インテグレーション)。
➍ 転写・翻訳
CD4細胞が必要な物質(蛋白など)を合成する工程に紛れ込んで、HIVの材料(部品の原型)が大量に生産されるようになる。
➎ 出芽
HIVの材料が集まり、CD4細胞の膜をまとって細胞の表面から飛び出してゆく。
➏ 完成
HIVの酵素「プロテアーゼ」がハサミのように働き、材料が適切に切り分けられる。部品が組み立てられるとHIVは完成し、次のCD4細胞に感染することが可能となる。
HIVなどのレトロウイルスは「逆転写酵素」の働きで、ウイルスのRNAからDNAを作成します。さらに「インテグラーゼ」という酵素の働きで、ウイルスのDNAを核内に侵入させます。核内に入ったウイルスDNAがヒトのDNAに組み込まれ、このDNAの指令によって、HIVが作られていくのです。(上記図参照)
コロナウイルスを含め、多くのRNAウイルスは、逆転酵素もインテグラーゼも持っていません。したがって、RNAからDNAを逆転写することもできないし、インテグラーゼを持たないために核内に遺伝子を侵入させることもできません。これが例外的にできるからこそ、HIVなどレトロウイルス(retro-とは逆のと言う意味があります)は特殊なのです。
International Committee on Taxonomy of Viruses (国際ウイルス分類委員会)の分類によって、全てのウイルスは
①2本鎖DNAウイルス、
②1本鎖DNAウイルス、
③2本鎖RNAウイルス、
④1本鎖RNAウイルス[プラス鎖]、
⑤1本鎖RNAウイルス[マイナス鎖]、
⑥1本鎖RNAウイルス[逆転写]、
⑦2本鎖DNAウイルス[逆転写]
の7つのグループに分けられています。
コロナウイルスは、④1本鎖RNAウイルス[プラス鎖]に属しており、HIVなどの⑥1本鎖RNAウイルス[逆転写]とは全く異なるグループに属しています。
もちろんコロナワクチンは、逆転酵素やインテグラーゼを持っていません。
したがって、コロナワクチンに含まれるコロナウイルスの遺伝子の一部(RNA)がDNAを逆転写し、さらに細胞核内に侵入して、ヒト細胞核のDNAに組み込まれるなどという現象ことは起こり得ません。(下図参照)
コロナビHPより
さらに、付け加えれば、コロナワクチンのmRNAは非常に脆弱で簡単に壊れてしまい、分解してしまいます。数日しか形を保てません。また、このmRNAが細胞質内で作り出すコロナウイルスのスパイク蛋白も複製されることなく、短時間で崩壊するか、破壊されてしまいます。
そもそも人間は生まれてから数え切れないぐらい、RNAウイルスに感染しています。もしもワクチン反対派がけたたましく騒いでいるように、1回の接種で逆転写もできないコロナワクチンの不完全なmRNAが、すいすいとヒト細胞核内DNAに組み込まれて、子孫に害を及ぼしてしまうというのなら、いったい何回ウイルス遺伝子(RNA)がヒトのDNAの中に組み込まれているのでしょうか。
2.不妊になる
少し前までワクチン反対派の主要な攻撃目標が、HPVワクチンであったころ、彼らはやはりHPVワクチンを接種すると不妊になると大騒ぎをしていました。
じっさい、新しいワクチンが登場するたびに、ワクチン反対派の連中は必ず死者が出る!、不妊になる!、と大騒ぎし、許しがたいことにファクトに基づき、正確な解説をする良心的な専門家を「○○から金をもらっている御用学者だ!」「製薬会社のまわしものだ!」などと、誹謗、脅迫、人身攻撃を常套手段としてきました。(じっさいに大勢で抗議に押しかけることもあったようです。多様な意見の尊重はどこへ行った?尊重は仲間だけ?)
今回のコロナワクチンについても、かつてみられたおぞましい光景が性懲りもなく、ワクチン名を替えただけで、デジャブのように繰り返されています。オレオレ詐欺の被害者のように、毎回彼らに惑わされ、高額のお布施を貢がされている人達に対し、事細かに正しい医学的ファクトを対置することは、洗脳を解くためにも重要だと考えます。
第一に、「コロナワクチンを接種すると不妊になる。」「流産する。」「妊娠に悪影響を与える。」という主張について、検証します。
今回の新型コロナワクチンも含め、これまでに日本で使用されたどのワクチンも不妊の原因になるという医学的事実はありません。そもそも不妊は卵子が卵巣から子宮に移動がうまくいかないか、受精卵が子宮にうまく着床できないために起ります。いったい、1回接種しただけのワクチンが、どこにどのように働いて不妊を引き起こすのでしょうか。
新型コロナワクチンには、排卵や妊娠に直接作用するホルモンは含まれていません。
動物実験においても、ファイザー社製のワクチンで、接種したラットが問題なく妊娠・出産したことが確認されており、生まれた仔にも異常はありませんでした。
アメリカで、新型コロナワクチン(mRNA ワクチン)の接種を受けた35,691⼈の妊娠女性への調査によると、発熱や倦怠感などの副反応の頻度は、妊娠していない⼥性と同程度でした。
また、ワクチン接種後に出産した827人の女性の追跡調査では、流産、早産、胎児の発育遅延、先天奇形、新⽣児死亡が起る確率は、ワクチンを接種していない出産女性と変わりはありませんでした。
Preliminary Findings of mRNA Covid-19 Vaccine Safety in Pregnant Persons N Engl J Med 2021;384:2273-2282
イギリスからもワクチンを接種した妊婦さんと接種していない妊婦さんの流産率は変わらないとの報告がありました。
Male, V., Are COVID-19 vaccines safe in pregnancy? Nat Rev Immunol, 2021;21(4):
200-201.
また、mRNAワクチンの臨床試験では、ワクチン接種後に妊娠した人がいることも報告されており(ファイザー社:ワクチン接種群12人、プラセボ接種群11人)、ワクチン接種により妊娠しにくくなるというデータはありません。
アメリカではすでに10万人近い妊婦がコロナワクチンを接種しています。しかし、以上みたように、現在までの接種後の追跡調査では、コロナワクチンが妊娠に悪影響を及ぼしたという報告はありません。
第二に、ワクチンのmRNAを包んでいる「脂質ナノ粒子」がワクチン注射後、大量に卵巣に蓄積し、卵巣を障害し、不妊になるという主張についても検証してみます。
ファイザー社が提出した薬物動態試験の結果、mRNAを包み込んでいる「脂質ナノ粒子」(LNP)が、卵巣からも見つかりました。しかし、接種後LNPは投与部位(注射部位)が最も多く、投与後48時間までの間に、卵巣で検出されたLNPの総量は、総投与量の0.1%未満でした。下記はファイザー社から提出された薬物動態試験の報告です。
一方、注射をした場所(人間であれば通常は腕)には、接種から1時間後には53%、48時間後でも25%のワクチン成分が残っていた。次に蓄積するのは、血液中の不要物質を取り除いてくれる肝臓(48時間後に13%)だった。
雌雄Wistar Hanラットに,[ 3H]-コレステリルヘキサデシルエーテル([ 3H]- CHE)で標識したLNPを用いたルシフェラーゼRNA封入LNPを50µgRNAの用量で筋肉内投与し,投与後
15 分なら びに 1,2,4,8,24 および 48 時間の各時点において雌雄各3匹から血液,血漿および組織を採取し液体シンチレーション計数法により,放射能濃度を測定することで
LNP の生体内分布を評価した。
雌雄ともに,放射能濃度はいずれの測定時点においても,投与部位が最も高値であった。血漿中の放射能濃度は,投与後 1~4 時間で最も高値を示した。
また,主に肝臓,脾臓,副腎および卵巣への分布がみられ,これらの組織において放射能濃度が最も高くなったのは,投与後 8~48 時間であった。
投与部位以外での投与量に対する総放射能回収率は肝臓で最も高く(最大 18%),脾臓(1.0%以下),副腎(0.11%以下)および卵巣(0.095%以下)では肝臓と比較して著しく低かった。
また,放射能の平均濃度および組織分布パターンは,雌雄でおおむね類似していた。
(*SARS-CoV-2 mRNA Vaccine (BNT162, PF-07302048) 2.6.4 薬物動態試験の概要文 PFIZER CONFIDENTIAL Page 1 TAより転載)
ファイザー社の報告を読むと、「ワクチン成分のナノ粒子が、卵巣内に80%近く高濃度に蓄積される」とファイザーが報告した、などというワクチン反対派の騒ぐ「実験結果」など、どこにも書いてありません。
また、ワクチン接種後48時間までは、卵巣の脂質レベルは上昇していますが、LNPを注入したのですから、ワクチンの成分が体内を循環すし、一時的に増加するのは当たり前の現象です。
mRNAワクチンはそのままでは形を保てません。そのため、ナノ脂質がRNAを包み込んで標的場所に運ぶのです。このナノ粒子はどのような物質なのでしょうか。
RNAデリバリーの脂質ナノ粒子 (LNP)によれば、今回mRNAワクチンに使用されている脂質ナノ粒子は、20年に及ぶ研究の結果、選ばれた素材でした。引用文献の本文中でも、その成果が謳われています。
COVID-19を予防するために現在投与されているRNAベースのワクチンは、20年間の研究の集大成であり、LNPへの組み込みが成功の重要な要因です。
さらに、現在のパンデミックを超えて、他のワクチンや治療法の無数のアプリケーションがあります。
脂質ナノ粒子が卵巣に検出されてもほとんど無視できる少量であり、48時間以降は消失していきます。この脂質ナノ粒子が不妊の原因になることは考えられません。
第三に、コロナワクチンのmRMAが作り出すスパイク蛋白が、胎盤を形成する蛋白シンシチン-1と構造が似ているため、コロナウイルスに対する抗体に胎盤が攻撃され、妊娠に悪影響を与える、という説を検討します。
ファイザーのイギリス研究施設のvice presidentだったマイケル・イードンは、ファイザー研究所を退職後、mRNAワクチンの作り出すスパイク蛋白とヒト胎盤を形成するシンシチン-1と呼ばれる蛋白の構造が似ているため、ウイルス抗体が胎盤も攻撃し、流産や不妊症の原因になると主張しました。この彼の主張は、日本でも孫引きされ、信奉者が発する偽情報でもよく引用されたりしています。
このイードンという人物は、マスク着用、ソーシャル・ディスタンスなどは無用、コロナワクチンは人類滅亡のための道具であり、ワクチン接種者は3年以内に全員死亡する、という荒唐無稽な主張を行っている人物です。
コロナウイルスのスパイク蛋白は1273個のアミノ酸から構成されています。(左図)
胎盤の形成に関与するシンシチン-Iは538個のアミノ酸から構成されています。
*図はnatureダイジェスト 新型コロナウイルスが細胞に侵入する仕組みから転載。
そもそもコロナウイルスのスパイク蛋白と胎盤シンシチン-Iが「酷似」しており、スパイク蛋白を標的に作られた抗体が胎盤を攻撃するならば、mRNAワクチンだけでなく、実際のコロナ感染でも胎盤攻撃が起るはずです。
そうすると、コロナ感染の母体の胎盤は、流産が高率に起るはずです。しかし、妊娠初期に感染を起した女性の流産率と、感染していない女性の流産率は変わりありませんでした。
スパイク蛋白と胎盤シンシチン-Iはアミノ酸配列は一部で共通する部分もありますが、大きさも立体構造も大きく異なることが明らかにされています。肝心のスパイク蛋白の抗体が反応する部位のアミノ酸の配列と、シンシチン-Ⅰのアミノ酸配列は、似ているところが少ないこともわかりました。したがって、コロナワクチンに誘導される抗体が胎盤(のシンシチン-Ⅰ)を攻撃することは考えられません。
また、コロナ回復期の患者の血液を使った実験でも、シンシチン-Ⅰを攻撃するような抗体は検出されていません。
3.ADEが起る
抗体依存性感染増強(ADE:Antibody-dependent enhancement)とは、ウイルスの感染やワクチンの接種によって体内にできた抗体が、その後に同じ病原体に再度感染した際に、かえって病気を悪化させる病態をいいます。
また、特にワクチン接種により、ウイルスに感染した時の症状が悪化してしまう現象を、ワクチン関連疾患増強(VAED:vaccine-associated
enhanced disease)と呼びます。
ADEは、ヒトリンパ球のTh1細胞(ヘルパーT1細胞。病原体を攻撃する総指揮官のリンパ球)とTh2細胞(ヘルパーT2細胞。病原体を攻撃するのではなく、むしろ抑制する働きを持つリンパ球。)のうち、Th2細胞の力が異常に強いため、十分病原体を攻撃する態勢ができず、病原体に蹂躙されてしまう病態です。そして、貧弱なTh1細胞が命令して免疫抗体を作っても、「できそこない」の不良品のため、ウイルスの再度の細胞内侵入を抑えるどころか逆に援助してしまい、病気を軽症化するどころか、悪化させてしまいます。
特に免疫細胞などの複合体が、呼吸器系で強い炎症を起こすことを、ワクチン関連増強呼吸器疾患(VAERD:Vaccine-associated enhanced
respiratory disease)と呼びます。
ADEは、一本鎖RNAウイルスのグループで起こりやすいといわれています。ヒトに感染する(一本鎖RNAウイルスのグループの)コロナウイルス7種のうち、明らかなADEの臨床報告は未だありません。
新型コロナウイルス感染症は、すでに2回罹り、3回罹りした人が世界各地に大勢います。もしも、コロナ感染でADEが起るなら、2回目の感染で重症になる人が続出するはずです。しかし、2回目の感染が重症化したという報告は見当たらず、新型コロナウイルスSARS-CoV-2がADEを起こしたという報告は現在までありません。
しかし、2003年のSARSウイルス流行では、開発中のSARSワクチンを接種したサルに、理論的なADEの可能性が疑われる現象が観察されたそうです。しかし、このSARSワクチンはSARSそのものが収束したため、ヒトに実際接種されることはありませんでした。したがって、この開発中のSARSワクチンが、実際ヒトにADEを起こすかどうかは不明なまま幕引きとなりました。
一般に、ワクチンの開発では、ADEやVAERDを起こさないために、高い免疫力(中和能)がある抗体を作ること、Th1細胞優位の免疫反応を誘導するようなワクチンをつくることが要求されています。
SARSワクチンの経験も踏まえた上で開発された、ファイザー社製mRNAワクチンは、誘導される抗体は十分強力で、Th1優位の免疫が誘導されることが分かっています。実際のヒトに投与して、すでに億単位の使用実績がありますが、先に述べたように実際にADEを起こした被接種者は知られていません。
ただし、今後変異株が流行し、ワクチン接種が続いた場合、ADEが後から発見される可能性は絶無とはいえません。(ほとんど可能性は0ですが。)
デングウイルスに対するワクチン「Dengvaxia」のように、臨床試験では良好な結果が得られたのに、その後接種したところ、ADEを起したワクチンも過去には存在しました(詳細下記)。しかし、そもそもデング熱自体が、ADEを日常的に起す病気でした。
コロナワクチン接種後のADEに関しては、今後も接種後調査を続けることは必要です。しかし、この追跡調査はあくまで理論上可能性があるために行われるもので、ADEを起す危険が高いから、ということではありません。
デングウイルスワクチン「Dengvaxia」とADE
デングウイルスは以前から、ヒトにADEを起こすことが知られていました。デングウイルスには、4つの血清型(1型,2型,3型,4型)があり、ヒトは感染するとその血清型のデング熱ウイルスに免疫ができます。(→デング熱)
ところが、「最初に感染した血清型に対して成立したウイルス抗体が、2回目に別の血清型のデングウイルスに感染した時、デングウイルスの働きを助け、2回目のデング熱は1回目のデング熱より重症化しやすい」という現象が起きます。これを抗体依存性感染増強(ADE:Antibody-Dependent
Enhancement)と呼びます。
このデングウイルスのADEは、特に小児で起きやすいといわれています。そのため、デング熱ワクチンもADEを誘発しないよう、細心の注意を払って作られました。
後に商品名「Dengvaxia」と名付けられるワクチンは、デング感染すべてに対して 56.5% の VE 、デング出血熱に対するVEは88.5%と良好な結果を示しました。
それでフィリッピンで接種が始められたデング熱ワクチンでしたが、83万人の小児が Dengvaxia 接種を受けたところ、ワクチン接種前にデングウイルスに感染していなかった児では、ワクチン接種後にデングウイルスの初感染を起すと、重症デング熱がむしろ増加することがわかったのです。
フィリピン保健省は2017年12月に、Dengvaxia 接種を中止しました。しかし、このDengvaxiaの中止決定はフィリピンで大変な問題となり、特に小児の保護者に大きな衝撃を与えました。「Dengvaxiaは危険なワクチンだ」→「すべてのワクチンが危険だ」と信じ込む保護者が続出したのです。(誰かさんが煽ったのでしょうが。)
巻き添えを食ったのが、フィリッピンの子ども達です。ワクチン忌避が麻疹ワクチンに飛び火し、フィリピンにおける麻疹ワクチンの接種率は、2017年の89%から、Dengvaxia中止後の2018年は67%,2019年は73%と大幅に低下してしまいました。
その結果は、フィリピン全土における麻疹の大流行でした。2017年は2,428人、2018年は20,827人、2019年は48,525人の子ども達が麻疹にかかり、2019年上半期の4ヶ月だけで
、415 人の子どもが麻疹で死亡したのです。
*参考:守屋章成:新型コロナワクチンまとめ
これ以外の情報の検証についても、今後加筆拡充していきます。
コロナワクチンについて
乳幼児用コロナワクチンについて
小児用コロナワクチンについて