その他の注射(抗体注射)        2024.8.1

分子標的治療とは、ある分子を標的にして、その機能を阻害することで、それが引き起こす有害な症状を抑える医薬品(分子標的治療薬)を用いた治療をいいます。

生物学的製剤とは、化学的に合成したのではなく、遺伝子組み換え技術を用いて、細胞培養などでつくられた薬剤をいいます。
分子量が50万から70万の巨大なたんぱく質で、細胞膜表面
の受容体(リセプター)の突起などに作用し、ターゲットとした細胞の働きを抑えます。
大きな分子量のため、直接細胞の内には入り込めず、飲み薬としては不適で、注射薬として用いられています。

ヒト化抗体とは、免疫グロブリン製剤で、その一部をヒトグロブリンに置き換えたもので、シナジス、ベイフォータスがこれにあたります。これらの免疫グロブリン製剤は、予防接種薬(ワクチン)ではありませんが、感染症の発病を予防する働きがあります。



1.パリビズマブ(シナジス)

●シナジスとは

シナジスは一般名を「パリビズマブ」といい、RSウイルスに対するモノクローナル抗体(RSウイルスのみを標的に、これに接着し、このウイルスの増殖を防ぐ免疫物質)です。(RSウィルス感染症についてはこちら

シナジスを注射することによって、体内に侵入したRSウイルスの増殖は抑えられ、RSウィルス感染症の重症化を防ぎます。


アッヴィ合同会社「シナジス筋注液」パンフレットより転載

シナジスは図にあるように、 RSウイルス表面にあるF蛋白(融合前F蛋白)に結合し、RSウイルスの細胞内侵入を防ぎます。シナジスは、抗RSウイルスヒト化モノクローナル抗体と呼ばれています。

●予防する病気

以下に挙げる、 RSウイルス感染症にかかってしまうと重症化する恐れのある赤ちゃんに注射し、RSウイルス感染症の発病を防ぎます。(非常に高価な製剤のため、注射する赤ちゃんが制限されています)

①在胎週数28週以下で生まれ、RSウィルス流行時に生後12ヵ月以下(1歳以下)の赤ちゃん
②在胎週数29~35週で生まれ、RSウィルス流行時に生後6ヵ月以下の赤ちゃん
③過去6ヵ月以内に、気管支肺異形成症(BPD)など呼吸障害の治療を受けたことがあり、RSウィルス流行時に生後24ヵ月以下(2歳以下)のお子さま
④重い心臓病を持った、RSウィルス流行時に生後24ヵ月以下(2歳以下)のお子さま
⑤免疫不全を伴った、RSウィルス流行時に生後24ヵ月以下(2歳以下)のお子さま 
⑥ダウン症候群の、RSウィルス流行時に生後24ヵ月以下(2歳以下)のお子さま

●注射の方法

赤ちゃんの体重を測定し、投与量を決めます。体重×15mgで計算し、50mg、100mgのバイアルを希釈液で溶いて、注射液を作成します。

乳児の大腿前外側に筋肉注射します。注射量が1mlを越えるときは分割して筋注します。
シナジスは1ヵ月で血液中の濃度が低下するため、1ヵ月ごとに投与を続けます。

シナジスについての詳しい説明はこちらをお読みください。(→シナジス

2024年3月に、シナジスの注射の対象に肺低形成、気道狭窄、先天性食道閉鎖症、先天代謝異常症、神経筋疾患が追加されました。しかし、これらの病気は超重症で、通常の小児科外来にはまず受診されません。

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2.ニルセビマブ(ベイフォータス)


●注射液の内容

ベイフォータスは、抗RSウイルスヒトモノクローナル抗体製剤で、シナジスと同様、予防接種ではありません。
シナジスと同様、ベイフォータスはRSウイルスのF蛋白(融合前F蛋白)に結合し、 RSウイルスの細胞内侵入を阻止します。

●予防する病気

1)生まれて始めて、又は2シーズン目のRSウイルス感染流行期に、RSウイルス感染症のリスクを有する小児①~⑥における、RSウイルス肺炎の発病の予防

生後初回のRSウイルス感染流行期の流行初期において、
①在胎週数28週以下で生まれ、生後12ヵ月以下(1歳以下)の赤ちゃん
②在胎週数29~35週で生まれ、生後6ヵ月以下の赤ちゃん

生後初回、および2回目のRSウイルス感染流行期の流行初期において、
③過去6ヵ月以内に、慢性肺疾患(CLD)の治療を受けたことがあり、生後24ヵ月以下(2歳以下)のお子さま
④重い心臓病を持った、生後24ヵ月以下(2歳以下)のお子さま
⑤免疫不全を伴った生後24ヵ月以下(2歳以下)のお子さま 
⑥ダウン症候群の生後24ヵ月以下(2歳以下)のお子さま

2)生後初めてのRS ウイルス感染流行に遭遇した全ての赤ちゃんのRSウイルス肺炎の予防

●注射の方法

5kg未満の新生児・乳児は50mgのシリンジ、5kg以上の新生児・乳児は100mgシリンジとシンプルになっています。
また、1回接種で5ヵ月間効果が持続するので、RSウイルス流行期に1回注射のみで済みます。

 シナジスと比較すると、1シーズン1回注射で良いこと、毎回体重を計り、投与量を調節しなければならないこと、などを考えるとベイフォータスの方が圧倒的に使用しやすい抗体製剤です。

しかし、ベイフォータスは小児科外来診療料を算定している当クリニックでは薬剤を含む全ての医療費が包括となるため、ベイフォータス分を出来高で請求することができず、事実上注射はできません。シナジスと同じ扱いが認められることを強く望みます。

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