Ⅰ.ウィルスの病気-前編 (よくみられるウイルスの病気-前編)
インフルエンザ(別稿)
麻疹は、その感染力の強さ、死亡率の高さから古くから怖れられてきた伝染病でした。麻疹は「命定め」といわれ、1862年江戸の大流行では、239.862名の死者が寺から報告された程でした。「犬公方」で有名な徳川綱吉も、64歳で成人麻疹で死去しています。
WHOは我が国を含む西太平洋地域において、2012年を麻疹排除の年に設定しました。
典型的な麻疹の発疹 |
そのため、我が国も麻疹排除計画を立てて、積極的なワクチン接種を行ってきた結果、2015年3月、WHOによって我が国は麻疹排除国と認定されました。
●麻疹の症状
潜伏期間は、通常9~12日で、感染経路は咳からうつる飛沫感染、飛沫核を吸い込んでうつる空気感染、接触でうつる接触感染と多彩です。感染力はきわめて強く、発病前の1~2日から発疹出現4~5日までが感染期間です。
症状は3期に分けられます。
まず、38℃ぐらいのそれほど高くない発熱と、くしゃみ、鼻水、乾いた咳、目の充血などのかぜ症状が3~5日続きます(カタル期)。
この時期の終わりに、赤いふくらみの頂点に白いポツポツがみられる、麻疹特有の口内疹(コプリック斑)が出現します。この後、一時解熱しますが、すぐに40℃近い高熱がぶり返し、顔から小さな赤いぽつぽつが出始め、急激に全身に広がります(右写真参照)。発疹は癒合(ゆいごう)し、まだら状に赤い波模様になります。
2度目の発熱は3~5日続き、高熱のためお子さまは大変苦しみます。咳もひどくなり、肺炎、クループ(急性喉頭炎)、中耳炎を合併することもあります(発疹期)。その後、解熱し、赤い発疹は茶色になり、しばらく褐色の色素沈着を残します(回復期)。
現在は土着の麻疹ウイルスが消滅したため、外国産の麻疹ウイルスが海外から持ち込まれて国内で発病する、感染症となりました。そのため、麻疹ワクチン未接種の乳児やワクチン受けそびれが多数残存している30~40代の成人が、感染源になる可能性があり、問題となっています。
●麻疹の診断
麻疹は2008年から全数報告の感染症となり、全患者を保健所に報告することになりました。
典型的な麻疹の症状の患者は診断は容易ですが、ウイルス学的な検査診断が要求されることもあり、血清IgM抗体(直近の感染で上昇します)を測定します。IgM抗体の陽性で診断は確定しますが、突発性発疹、伝染性紅斑でもIgM抗体が陽性になることがあり、慎重に症状と組み合わせて判断しなければなりません。
また、RT-PCR法は麻疹ウィルスの遺伝子を検出する検査方法で、検体を保健所に提出して検査してもらいます。
●麻疹の治療
治療は、特別のものはありません。適度の明るさ、温度、湿度の部屋に静かに休ませ、まめに水分を与えて様子をみます。細菌感染が合併したと考えられる例(肺炎や急性中耳炎)には抗菌剤(抗生剤)を、咳がひどい場合は咳止めを、結膜炎には点眼剤を、水分が取れない時は点滴を行って回復を待ちます。
●麻疹の合併症
合併症は、まず麻疹肺炎があります。これは麻疹そのものによる場合と、細菌が増殖しておこす細菌性肺炎があります。細菌性肺炎では、抗生剤で強力に治療します。麻疹肺炎は重症になることがあり、人工呼吸器が必要になることもまれではありません。呼吸不全で死亡する例もあります(急性呼吸窮迫症候群ARDS)。
クループ(急性喉頭炎)になり、ケンケンする犬の吠えるような咳で苦しむお子さまもいます。中耳炎もよくみられる合併症です。結膜炎で目が真っ赤になります。
麻疹脳炎は、麻疹の患者1000~2000人に1人の割りで発症し、15%が死亡、20~40%に後遺症が残るといわれています。
また、麻疹に罹患した後6~10年に、10万人に1人の割合で、SSPE(亜急性硬化性全脳炎)という脳炎が発病することがあります(遅発性合併症)。これは徐々に知能低下が進行し、最後には死亡する恐ろしい病気です。治療法はありません。
●麻疹の予防
麻疹は予防接種で防げます。ワクチン接種し、恐ろしい麻疹を予防することが大切です。1歳になったら、すぐにMR混合ワクチンを接種しましょう(詳しくは、予防接種MR混合ワクチンをご覧下さい)。
現在、1歳でMRワクチン1期、5歳でMRワクチン2期が、定期接種として行われています。2010年の実績では、接種率は1期96%、2期92%まで上昇し、2011年の麻疹患者数は434名(100万人当たり3.58)まで低下してきています。(2008年の患者数は11.005人)
もしも、保育園などで麻疹が発生してしまった時は、ワクチン未接種のお子さまは、患者と接触して1~2日以内に麻疹ワクチンを接種すれば軽症化が期待できます。
●登校・登園基準
登校・登園基準としては、発疹を伴う発熱が解熱した後、3日を過ぎるまでは登校・登園できません(学校保健安全法、保育所における感染症対策ガイドライン)。また、麻疹が治った後も高熱が出て、麻疹脳炎が続発する可能性があることや罹患後数週間は抵抗力(細胞性免疫)が著しく低下するので、しばらくは無理をせず、ゆっくりと体力の回復をはかってください。
2007年初夏に首都圏で麻疹が流行しました。わが国の麻疹対策の不徹底振りが白日の下にさらされた事態でした。2007年の麻疹流行に対する当クリニックの見解はこちら。
2018年現在、台湾から持ち込まれた麻疹が沖縄で流行しています(報道はこちら)。2018年の流行に対する当クリニックの見解はこちら。
風疹は風疹ウイルスの感染症で、三日ばしかともよばれますが、麻疹(はしか)とは関係ありません。一般に乳幼児は軽症で経過することが多いのですが、成人では重症になることが少なくないこと、妊娠初期の女性が感染すると先天異常のこども(先天性風疹症候群)が生まれる可能性があることから、未感染のお母さまは注意が必要です。
●風疹の症状
潜伏期は14日~21日で、感染経路は咳からうつる飛沫感染です。
症状は、38℃ぐらいの軽い発熱が2~3日みられますが、約半数の人は熱がでないか、気づかない程度です。風疹の発疹は顔、くびから全身に広がります。細かい赤い点(丘疹)で、皮膚面よりやや盛り上がり、3~5日で消えてしまいます。麻疹のような色素沈着は残しません。
年長児や成人は比較的典型的ですが、乳幼児では発疹だけで、風疹の診断をすることは困難です。また、くび(耳後部)とくびの後(後頭部)のリンパ節の腫れが目立ち、圧すと痛がります。
年齢は、5~15歳の子どもが多くかかりますが、大人でも未感染、ワクチン未接種なら感染します。
●風疹の合併症
合併症としては、4000~6000人に一人の割りで脳炎を、3000人に一人の割りで血小板減少性紫斑病(血小板が激減し、全身に出血斑が出現する)を合併します。また、成人の風疹では、関節炎がみられます。
妊娠早期に風疹にはじめて感染する(初感染)と、白内障(目が見えない)、心臓病、難聴などの障害をもった先天性風疹症候群の赤ちゃんが生まれます。
●風疹の診断
診断は典型例では容易ですが、風疹の発疹は学童では比較的特徴的になるものの、乳幼児では発疹だけでは風疹とは確実に診断できません。疑わしい例では、血液検査(風疹抗体検査)が必要です。
●風疹の治療
治療は特にありません。一般に軽症に経過するので、発疹の出ている間は安静にして過ごします。
●風疹の予防
風疹はワクチン接種によって、感染を防ぐことができます。
男の子の場合でも、風疹にかかると風疹脳炎や血小板減少性紫斑病のリスクがあることや風疹未感染のお母さまのおなかの赤ちゃんを風疹ウイルスから守るために、ぜひ予防接種を受けておきましょう(詳しくは、予防接種MR混合ワクチンをご覧下さい)。
●登校・登園基準
登校・園基準は、発疹が消失するまで登校できません。鼻咽腔(のど)に風疹ウイルスを排泄している期間は、発疹出現後5~7日といわれています。
2013年、風疹が大流行しました。今回の風疹流行に対する当クリニックの解説はこちら。
おたふくかぜは流行性耳下腺炎ともよばれ、ムンプスウイルスに感染して耳の下(耳下腺)とあごの下(顎下腺)の唾液腺(つばを分泌する臓器)が腫れる病気です。東京では保育園を中心に流行しており、お子さまとともにお母さまが感染するケースもみられます。
●おたふくかぜ症状
潜伏期は14日から21日で、感染経路は咳などからうつる飛沫感染です。
症状は軽い発熱と耳の痛みで始まり、やがて耳の下の頬(耳下腺)が腫れて盛り上がってきます。あごの下(顎下腺)が腫れる人もいます。頬の腫れは2~3日間はかなりの痛みを伴いますが、通常4~7日ほどで回復に向かいます。頭痛を伴うことも多いようです。
年齢は子どもが多くかかりますが、大人にも感染します。
●おたふくかぜの合併症
合併症としては無菌性髄膜炎(ムンプスウイルスが脳を包む膜=髄膜をおかし、激しい頭痛、嘔吐、発熱がおこる)が10人に1人のわりでみられます。後遺症は残さず予後は良いのですが、嘔吐が激しく脱水気味だったり、頭痛がひどく全身状態が不良の場合は、入院して経過をみることもあります。また、より重症の脳炎(発熱、けいれん、意識障害をおこす)は6000人に1人のわりで発病するといわれています。
最近おたふくかぜはこどもの難聴の原因として注目されています(約1000人に1人の割合で難聴になると報告されています)。まれには膵炎(激しい腹痛を呈する)をおこすこともあります。おとなでは、睾丸炎、卵巣炎を合併することがありますが、不妊の原因になることはないといわれています。
●おたふくかぜの診断
診断は意外と難しく、ムンプスウイルス以外のウイルスでも唾液腺を腫れさせる(耳下腺炎をおこす)ことが珍しくないこと、おたふくかぜ自身が無症状(不顕性感染という)から両方の頬が腫れあがる重症例までいろいろな症状を呈するため、症状からだけではおたふくかぜかどうか、はっきりしない例もあります。このような診断が困難な例では、必要なら血液検査でムンプス抗体価(おたふくかぜにかかった証拠になります)を調べたほうがよいでしょう。
●おたふくかぜの治療
治療はおたふくかぜそのものを治す薬はありません。当クリニックでは、反復性耳下腺炎(細菌で起こる)が否定できない例には抗生剤を処方しています。
おたふくかぜにかかっている間はなるべく安静にして下さい。入浴も控えます。また、つばが分泌されると痛みが増すので、食べ物は薄味にして消化の良いものを与えましょう。高熱、頭痛、嘔吐がひどいときは髄膜炎も否定できないので、来院して診察を受けて下さい。
●予防接種について
おたふくかぜを予防するムンプスワクチンは現在任意接種になっています。予防接種の有効率は90%ぐらいといわれており、ワクチンを接種しても感染する場合があります。また、予防接種の副反応として5000人に1人の割で軽い無菌性髄膜炎になる人がいます。
しかし、本当のおたふくかぜだと10人に1人は髄膜炎を合併すること、6000人に1人はさらに重い脳炎になる可能性があること、1000人に1人は難聴になること、実際おたふくかぜにお子さまがなった場合は長期に園をお休みしなければならない、などを考慮すれば、おたふくかぜの予防接種は必要です。ぜひワクチンを受けましょう。(詳しくは、予防接種おたふくかぜワクチンをご覧下さい)
●登校・登園基準
登校・園基準は、おたふくかぜは旧学校保健法では、「耳下腺の腫脹が無くなるまで」登校できませんでした。しかし、2012年4月2日、文科省は学校保健安全法施行規則を改正し、「耳下腺、顎下腺又は舌下腺の腫脹が始まった後五日を経過し、かつ、全身状態が良好となるまで」と登校基準を変更しました。したがって、小学校、幼稚園では、耳の下やあごの下が腫れだして、5日以上たって、ほぼ症状が治まっていれば、登校できることになりました。
しかし、保育園については、厚労省の「保育所における感染症対策ガイドライン」では従来の「耳下腺の腫脹が消失するまで」が踏襲されており、耳下腺の腫脹がなくなるまでは登園できません。
2017年、流行性耳下腺炎が全国で流行しました。品川区は平成19年より、おたふくかぜワクチンの接種費用助成を行っていたため、患者の発生が他地域に比べて少なかったものの、一定の流行が見られました。そのため、当クリニックは品川区に対し、1歳、5歳の2回、接種費用の助成を要望しています。
写真の掲載についてはお母さまのご承諾をいただいております。(無断転載厳禁)
水痘は水ぼうそうともよばれ、水痘・帯状疱疹ウイルスに感染しておこる病気です。伝染力ははしかに次いで強く、東京では数年来保育園、幼稚園を中心に流行が続いています。病原体は水痘・帯状疱疹ウイルスで、このウイルスに始めて感染する(初感染)と水痘になります。水痘が治った後も、水痘・帯状疱疹ウイルスはヒトの神経の中にひそみ(持続感染)、体の抵抗力が落ちたときに帯状疱疹(体の胸の皮膚などに水疱ができ、激痛がはしる)として再び発病します。
●水痘の症状
潜伏期は平均2週間ほどです。感染経路は咳などからうつる飛沫感染、空気感染と、水疱中のウイルスに接触してうつる接触感染の2つがあります。
症状は軽い発熱とおなかや背中に小さな赤いぽつぽつ(発疹)で始まり、やがて全身に広がります。一つ一つの発疹は小さな赤いぽつぽつから水を持った水疱になり、すぐに破けてかさぶた(痂皮)になります。うみを持った膿疱になるものもあります。かさぶたになれば、感染力はなくなります。発疹は体の胸腹部や手足、髪の毛の間、口内にも出現します。発疹がかゆくて、かきむしる子もいます。外陰部の水疱は潰瘍になると、なかなか治らないことがあります。手足の膿疱も皮膚が厚いため、なかなか乾かない例(2週間ぐらいかかることも)があります。
水痘は子どもが多くかかりますが、乳児や大人にも感染します。大人の水痘は重症で、時に入院加療が必要になるケースもあります。
●水痘の合併症
合併症としては、水痘肺炎、脳炎(水痘1000人に一人以下の割合で発症。水痘にかかって3~8日ごろ、頭痛、嘔吐、ふらつきなどの症状が出る)、急性小脳失調症、肝炎、ライ症候群(アスピリン使用により、肝障害から急性の脳症となる)が報告されています。
帯状疱疹
水痘が治った後、ヒトの神経の中に潜んでいた水痘・帯状疱疹ウィルスが、体の抵抗力が落ちたときに再び発病したものです。背中、胸、腹部などに水ぼうそうの半分ぐらいの小さな水疱をもった赤いプツプツが密集して出現します(右写真)。大人では激しい痛みを感じますが、お子さまはそれほど痛がらないようです。1~2週間ぐらいで治りますが、水痘未感染の子が発疹に触ると感染するため、十分水疱、発疹の部位を被うか、園をお休みしなければなりません。
●水痘の診断
診断は典型例では容易です。ただし、水痘の初期の発疹は、湿疹と区別のつかないことがあります。
●水痘の治療
かゆみを抑えるために抗ヒスタミン薬を処方します。抗ヘルペスウイルス剤(アシクロビル=ゾビラックス、バルトレックス)は、水痘・帯状疱疹ウイルスの増殖を抑え、発熱期間、発疹数を減らすため、服用すれば症状を軽くすませることができます。発病後3日以内の服用が勧められています。抗生剤は投与しません(水痘・帯状疱疹ウイルスには効果がないため)。
解熱剤はアスピリンはライ症候群を引き起こす可能性があり、水ぼうそうでは服用してはいけません。アセトアミノフェン(コカール、カロナール、アンヒバ)は、水ぼうそうでも安全に使用できる解熱剤とされています。
現在、水ぼうそうを予防する水痘ワクチンは任意接種になっていますが、ワクチン接種を強くお勧めします(詳しくは予防接種水ぼうそうワクチンをご覧下さい)。
生活上の注意としては、お風呂は水疱がある間はひかえます。水疱から新しい発疹が広がるのを防ぐためと、細菌で汚染されると化膿して痕が残るからです。ほとんどかさぶたになれば、シャワーぐらいは良いでしょう(ただし、この場合も水疱をこすらないことと、清潔には注意して下さい)。
●登校・登園基準
全ての発疹がかさぶたになるまで、登校・登園はできません(学校保健安全法、保育所における感染症対策ガイドライン)。
水痘・帯状疱疹ウイルスは、感染力が非常に強いので、お子さまが元気でも水疱が残っているうちは登園してはいけません。治癒するまで大体7~10日はかかります。
ただし、掌のような破れにくい箇所の水疱は、他が全てかさぶたになっていれば、完全に乾いていなくても1週間経過していれば、登園許可をお出しすることもあります。
突発性発疹は6ヶ月から1歳ぐらいの赤ちゃんが、生まれて始めて熱を出す病気として知られています。原因ウィルスはヒトヘルペスウィルス6型、7型と複数あるため、2度かかるお子さまもいます。ヒトヘルペスウィルス6型(HHV-6)は1歳前、ヒトヘルペスウィルス7型(HHV-7)は1歳過ぎに感染することが多いといわれています。
●突発性発疹の症状
潜伏期は平均10日ほどです。感染経路はお母さまの唾液に含まれるヒトヘルペスウィルス6型(B型)(HHV-6)の水平感染と考えられており、さらにヒトヘルペスウィルス7型(HHV-7)も突発性発疹をおこします。母乳を介して移ることはありません。
症状は突然の発熱で始まります。39~40℃の高熱が2~4日続きますが、赤ちゃんは元気で機嫌も悪くなりません。咳、鼻水はあまりみられませんが、下痢を伴なうことは多いようです。急に解熱して、胸、腹や手足、顔面に赤い発疹(ポツポツ)が出現します。その発疹は融合することも(麻疹様)ポツポツのまま(風疹様)のこともあります。発疹は3日ほどで消失します。この頃、1~2日ぐずるお子さまもみられます。
●突発性発疹の合併症
合併症としては、時に熱性けいれんがみられます。ごくまれに脳炎、肝炎の報告があります。
●突発性発疹の診断
診断は発疹が出れば容易です。また、始めての発熱、機嫌が良い、下痢をしている、咳・鼻水がない、などの症状からある程度、突発性発疹と予想することもできます。ただし、他の病気の可能性も否定できないこと(たとえば川崎病)、合併症を起こしていることもあるので、一度小児科で診察は受けておいた方がよいと思います。
●突発性発疹の治療
熱があっても元気で食欲も落ちないことが多いので、安静にして様子をみます。下痢がひどければ、お尻を清潔にして、離乳食は消化の良いものを与えるか、ミルクだけにしてもよいでしょう。
●登校・登園基準
特にありません。保育園内で他のお子さまに移すことはないといわれています。熱が下がり、元気になったら、発疹が残っていても登園してもかまいません。
RSウイルスは冬季に流行する、呼吸器をおかすウイルスの代表的な一つです。インフルエンザが流行する前に、毎年かなり流行します。このRSウィルスが恐ろしいところは、赤ちゃんが始めて感染すると、夜間突然呼吸困難に陥り、入院加療が必要になる、細気管支炎、肺炎を高率に起こすことです。
●RSウィルス感染症の症状
潜伏期間は3~5日で、感染経路はウイルスに汚染された鼻水や痰などが付着した手や物からの接触感染や、飛沫感染(せき、たん)です。
症状はさまざまです。年長児が感染してもただのかぜ症状で終わることがほとんどですが、年齢が低くなるに従い、症状が重くなります。特に赤ちゃんが始めてRSウィルスに感染(初感染)すると、細気管支炎や肺炎を起こすことがあり要注意です。
急性細気管支炎の典型的な症状は、鼻や咳などの通常のかぜの症状が2~3日続いた後、突然夜間ぜいぜいしだし、咳込みがひどくなり、陥没呼吸が出現し、呼吸困難に陥ります。酸素投与が必要で、すぐに夜間救急病院に急がなければなりません。呼吸困難は1~3日間が最もひどく、この時期を過ぎれば軽快していきます。喘鳴や咳込みは7日ぐらい続きます。
また、RSウィルス感染に母親の免疫は全く役に立たず、新生児でも感染して発病してしまいます。新生児では呼吸が止まってしまうことがあり(無呼吸発作)、呼吸を促がす薬が投与され、人工呼吸が必要になることもあります。やや大きいお子さま(6ヶ月~2歳)でもかなりぜいぜいし、入院まで至らなくても夜間咳込みがひどい状態が1週間ぐらい続きます。
●RSウイルスの検査
症状は乳児喘息と似ています。しかし、病気の経過、重症度が異なるため(RSウィルスの細気管支炎はきわめて重症になる可能性があります)、正確な診断が要求されます。
このRSウィルス感染症は迅速診断キットを用いれば、10分で診断可能です。ところが、このキットは2歳未満の入院中の乳幼児の検査しか、保険診療が認められていません。そのため、RSウィルス感染症の正確な診断が最も必要とされる小児科外来の現場では、コストを患者に請求するか(自費診療)、医療機関が負担する形でしか、検査を行うことができません。しかし、RSウィルス感染症の診断の重要性を考慮し、クリニック負担で迅速診断を行う小児科クリニックが少しずつ増えてきています。当クリニックもRSウイルス感染症が疑われるお子さまには、積極的な検査を心がけています。(2011年10月17日から乳児に限り、迅速診断が保険診療で可能になりました。詳細後述)
RSウィルス迅速診断がもしも陽性だったら、6ヶ月前の赤ちゃんは呼吸困難で入院する可能性があると考えておいたほうがよいでしょう。特に夜間の呼吸の状態を厳重に観察し(夜間急変することが多いため)、ぜいぜいがひどくなる、苦しくて眠られない、ウーウー言う、呼吸が止まるような症状がある場合は、救急病院へ受診して下さい。
また、RSウィルス陽性のお子さまは、小さな赤ちゃん(特に新生児)に近づいてはいけません。
このウィルスはありふれたウィルスで、特に珍しいものではありません。保育園でも毎年流行しています。保育園等に通園している赤ちゃんのお母さまは、園の流行情報には注意したほうが良いでしょう。ただしRSウィルスに関心を持ち、迅速検査を行っている医療機関は多くはありません。そのため、患者がいても診断されないケースも多く、情報が出てこないだけの場合もありえます。
●RSウイルス感染症の治療
治療は、抗生剤は全く効果はありません。喘鳴には気管支拡張剤の服用や食塩水の吸入を行います。細気管支炎、肺炎に進展してしまったら、入院して輸液、酸素投与、気道分泌物の除去などの治療を行います。
予防は、早産児や慢性肺疾患のある未熟児、先天性心臓病の赤ちゃんには、抗RSウィルス抗体であるパリビズマブ(シナジス)の筋注が2002年から行われていますが、高価な薬のため、一般のお子さまには使用できません。(→シナジス注射)
●登校・登園基準
登校・園基準は特に決められていませんが、ぜいぜいが続く間はお休みをさせたほうがよいと思います。
2011年秋、マスコミがいっせいにRSウイルスについて報道しました。毎年流行しているのに、毎年RS感染症に注意を喚起しているのに、という思いはありましたが、
マスコミしか情報源のない情報貧者の人たちにまで、RS感染症が認知されることになったのはよいことだと考えます。
さらにあれほど頑なにRS迅速診断の保険適応を拒んできた厚労省のペーパー医者役人が、RSウイルス感染症がたびたびマスコミで報道されるようになると、突然2011年10月17日にRSウイルス迅速検査の保険適応を認めたのです。したがって、現在1歳前の乳児に関しては、RS迅速検査が保険診療で検査できるようになりました。
ヒトメタニューモウィルス(hMPV)は、2001年にオランダで発見された、新しい呼吸器病のウィルスです。症状はRSウィルス感染症によく似ていますが、やや軽いようです。インフルエンザ流行の後、3~6月に流行すること、1~2歳の幼児がもっとも感染するところが、RSウィルス感染症と異なる点です。
●ヒトメタニューモウイルス(hMPV)の症状
潜伏期間は4~6日で、感染経路はウイルスに汚染された鼻水や痰などが付着した手や物からの接触感染が多く、飛沫感染(せき、たん)もみられます。
症状はさまざまです。年長児が感染しても、ただのかぜ症状で終わることが多いですが、年齢が低くなるに従い、症状が重くなります。特に1~2歳代のお子さまが、RSウィルス感染症のように、高熱が出てぜいぜいしていれば、ヒトメタニューモウィルス(hMPV)感染症の疑いがあります。乳児には、あまり感染しないようです。
38.0~39.0℃の熱が4~5日続き、ぜいぜいしたせき込みがひどくなります。呼吸困難の症状を示せば、細気管支炎、肺炎に進展している可能性も疑われ、入院加療が必要なこともあります。喘鳴や咳込みは7日ぐらい続くようです。
●ヒトメタニューモウイルス(hMPV)の検査
症状がRSウィルス感染症に似ていながら、RSウィルス迅速診断が陰性の場合は、ヒトメタニューモウィルス(hMPV)の迅速検査を行い、診断します。
ヒトメタニューモウィルス(hMPV)は迅速診断キットを用いれば、10分で診断可能です。ところが、このキットも保険診療が認められていません。そのため、ヒトメタニューモウィルス(hMPV)の検査を行うには、コストを患者に請求するか(自費診療)、医療機関が負担する形でしか、検査を行うことができません。しかも、RSウィルス感染症に比べて、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)感染症は関心が低く、検査を行う小児科クリニックはほとんどないのが現状です。
しかし当クリニックはこの疾患の重要さにかんがみ、流行状況を把握するために、必要な検査は行っています。
このウィルスもありふれたウィルスで、特に珍しいものではありません。保育園でも毎年3~6月に流行します。保育園等に通園している赤ちゃんのお母さまは、園の流行情報には注意したほうが良いでしょう。ただしRSウィルス以上に、患者がいても診断されないケースも多いものと思われます。そのため、高熱が出て、咳がひどいかぜが流行っている保育園は、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)が流行している可能性も考え、特に手洗いは厳重に励行する必要があります(接触感染を防ぐため)。
●ヒトメタニューモウイルス(hMPV)の治療
治療は、抗生剤は全く効果はありません。喘鳴には気管支拡張剤の服用や吸入を行います。細気管支炎、肺炎に進展してしまったら、入院して輸液、酸素投与、気道分泌物の除去などの治療が行われます。
ワクチンがないため、予防はできません。
●登校・登園基準
登校・園基準は特に決められていませんが、ぜいぜいが続く間はお休みをさせたほうがよいと思います。
伝染性紅斑(りんご病ともいう)は、ヒトパルボウイルスB19による感染症ですが、実は頬が赤くなる時期(りんご病)はこの病気の治りかけで、ほとんど感染力はないのです。また、この病気はおとな(お母さま)がかかると重い症状が出ることがあり、注意が必要です。
●伝染性紅斑の症状
潜伏期間は、通常4~20日で、まず数日間微熱、咽頭痛、倦怠感などがみられます。この数日間がこの病気の感染力がある時期(飛沫感染)ですが、かぜと区別がつかないため、軽いかぜとして扱われることがほとんどです。その後、1~2週して頬が赤くなり、はじめて伝染性紅斑と診断されます。
症状は、両頬がまずまだら状に赤くなり、やがて頬全体が真っ赤になります。さらに、腕全体や大腿や臀部に網目レース状の発疹が広がります。胸や腹に出ることは少ないようです。発疹以外の症状はあまりなく、軽い発熱、のどの痛みを訴える程度です。ごくまれに、関節炎や脳炎、心筋炎、紫斑病や貧血を起こすことがあり、このような例では強力な治療が必要になります。発疹はあまりかゆがりません。発疹は病気が治った後も、お風呂に入ったり、日光、運動の後で再発することがあります。
年齢は子どもが多くかかりますが、大人も感染し、発病します。大人のヒトパルボウイルスB19感染症は子どもに比べて重症で、関節炎や急激な貧血、高熱を呈することがあります。また、妊娠初期のお母さまが始めてヒトパルボウイルスに感染すると、ウイルスは胎児に感染し、胎児水腫や流産をおこしたりすることがあります。したがって、妊娠しているお母さまはりんご病に十分注意する必要があります。
●伝染性紅斑の治療
治療は特に必要ありません。
●登校・登園基準
登校・登園基準としては、りんご病の発疹が出るころには、感染力はないため、元気なお子さまは登校・園は可能です。ただし、合併症が見られることもあるので、症状の変化(発疹が消えていくか、元気はどうかなど)には気をつけて下さい。
2014年の伝染性紅斑
2014年1-2月に流行した伝染性紅斑は、従来の伝染性紅斑ではあまりみられなかった、体幹を含む全身に発疹がひろがる風疹様の症状(非典型例)のお子さまが多かったです(2名でパルボウイルスB19IgM抗体陽性確認)。ただし、国立感染症研究所IDWRによれば、伝染性紅斑そのものの報告数は多くないようです。(2014.2.23)
写真の掲載についてはお母さまのご承諾をいただいております。(無断転載厳禁)
伝染性紅斑の原因ウイルス、ヒトパルボウイルスB19のみが、パルボウイルスの仲間で人に病原性を持つと考えられてきましたが、2005年スウェーデンで発見された、ヒトボガウイルス(HBoV)も世界中で広範に人に呼吸器感染症を引き起こしていることが明らかになりました。ヒトボガウイルスは1型から4型まで分類され、1型は上気道炎、肺炎、喘息、2型は胃腸炎を起こすことが報告されています。
潜伏期間は、不明です。
ヒトボガウイルス1型(HBoV-1)は、年少児に発熱、咳、鼻水、痰、ゼイゼイ(喘鳴)といった症状を起こします。我が国の検討だと、発熱は3日ぐらいは続き、37.5~40.2℃まで上がるようです。さらに高率にゼイゼイし、喘息性気管支炎や喘息発作の診断で治療されることが多いようです。また、肺炎を起こし、入院する例もありますが、きわめて重症になることはあまりないようです。症状は1~2週間ぐらい続きます。1年中見られますが、冬期に多いようです。
ヒトボガウイルス2型(HBoV-2)は下痢などを起こします。3型、4型は病原性ははっきりしません。
2~3歳までに80%以上の子どもがヒトボガウイルス1型に感染し、6歳ごろにはこのウイルスに対する抗体が100%になるようです。
●ヒトボガウイルスの疫学
ヒトボガウイルスはRSウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス、インフルエンザウイルス、ヒトメタニューモウイルスなどと同時に検出されることが多いようです。
●ヒトボガウイルスの治療
喘鳴には気管支喘息に準した治療、咳鼻などに対しては、症状に応じた治療が行われます。ワクチンはありません。
参考:横浜市衛生研究所ヒト‐ボガウイルス感染症について
石黒信久、遠藤理香、有賀正:ヒトボガウイルス感染症:モダンメディア53;259-264.2007
伝染性単核(球)症は、EBウイルス(エプスタイン・バールウイルス)というウイルスが、初めて感染(初感染)した時に起こる病気です。このウイルスに初めて感染した年齢が低いほど、症状が出ない(不顕性感染)か、軽く済むといわれています。わが国では、乳幼児の時に初感染してしまうことが多いため、あまり伝染性単核症はみられません。
逆に欧米では思春期に初感染する例が多く、特にデートをした時のキスから唾液を介して感染・発病するため、「キス病(Kissing disease)」とも呼ばれています。
●伝染性単核症の症状
潜伏期間は、通常3週間から6週間です。
症状は、1~3週も発熱が続き(その後、熱は徐々に下がります)、全身倦怠感とのどの痛み(扁桃が真っ赤にはれ上がり、白い膜が扁桃につく)を訴えます。また、頚部のリンパ節や肝臓、脾臓が腫れてきます。赤い斑状の発疹や黄疸がみられることもあります。まれに、慢性の肝臓病(肝炎)に移行することがあります。
年齢は、学童以降は上記の典型的な伝染性単核症の症状がそろいますが、乳幼児ではかぜの症状に似た、軽症で終わってしまうこともあります。
●伝染性単核症の診断
診断は、血液検査で異型リンパ球という特別な白血球が、白血球全体の10%以上に増加します。また、EBウイルスの抗体が陽性になります。肝機能が障害される例が多くみられます。
●伝染性単核症の治療
治療は、特別なものはなく、発熱、のどの痛みにアセトアミノフェンを用います。EBウイルス感染に抗生剤は無効で、特にペニシリン系抗生剤(パセトシン、ワイドシリン)は、発疹を引き起こすので使用を控えます。また、肝機能が悪化していれば、肝庇護剤(グリチロン、強ミノC)を投与します。
●登校・登園基準
登校・登園基準としては、熱、のどの腫れ、肝臓の状態が正常になれば登校可能です。
サイトメガロウイルスは、あまり知られていませんが、ありふれたウイルスです。少し前までは、日本のほとんどの妊婦はサイトメガロウイルスに抗体を持っていました(感染していました)。また、感染しても、何の症状もなく終わる人が多かったので、あまり問題にされてきませんでした。
ところが、このウイルスに免疫のない女性が妊娠し、おなかに赤ちゃんがいるときに初めて感染すると、おなかの赤ちゃんがウイルスに攻撃され、「先天性サイトメガロウイルス感染症」という病気になって、さまざまな障害を持って生まれてくることがわかりました。近年、サイトメガロウイルスに抗体を持たない(感染したことのない)女性が増えてきたために、初感染の妊婦に起こる「先天性サイトメガロウイルス感染症」の存在が注目されるようになったのです。
また、新生児以外でもサイトメガロウイルス感染症は、輸血の後、体が弱っている時などに発病することがあります(後述)。
尿中の巨大な封入体(粒子)を持つ感染細胞(自験例) |
●サイトメガロウイルスとは
サイトメガロウイルスは、突発性発疹症の病原ウイルスであるヒトヘルペスウイルス6型(HHV6)、7型(HHV7)と同じβヘルペスウイルスというグループに属しており、正式にはヒトヘルペスウイルス5型(HHV5)と位置付けられています。
このヒトヘルペスウイルスの仲間には、1型、2型は単純ヘルペスウイルス1型と同2型、3型は水痘帯状疱疹ウイルス、4型は伝染性単核症の病原体であるEBウイルスと、よく知られた病気の原因ウイルスが多いです。
このグループのウイルス(ヘルペスウイルス群)は、始めて感染し病気を起こした後も身体の中に潜伏し、免疫が落ちた時に再び活性化し、症状を引き起こすという厄介な性質を持っています。
サイトメガロウイルスという名前は、サイト(細胞)+メガロ(大きい)から来ていて、感染細胞にはフクロウの目のような大きな粒子が見られます(右写真)。そのため、このウイルスの病気は、「巨細胞封入体症」とも呼ばれています。
●サイトメガロウイルス感染症について(先天感染以外)
赤ちゃんの先天性サイトメガロウイルスについては、次項で述べます。
それ以外の年齢のサイトメガロウイルス感染症としては、子どもに肝炎を起こすことがあります。また、思春期以降に始めてこのウイルスに感染する(キスや性行為で感染します)と、伝染性単核症(EBウイルスが起こします)によく似た、発熱、肝機能異常、頚部リンパ節腫脹、肝脾腫などの症状を示すことがあります。
免疫不全の患者さんが感染すると、発熱、肺炎、肝炎、脳炎などを起こして、重症化するため、注意が必要です。
●先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染症
サイトメガロウイルスが、このウイルスに免疫を持たない妊婦に初感染した場合、ウイルスは胎盤を通過して胎児に感染し、様々な症状を引き起こします。日本人の妊婦のサイトメガロウイルス感染率は、1986年には30歳台でほぼ100%に近かったのですが、2001-2005年には30歳台でも70%まで低下してきています。これは生活の欧米化が関係しているといわれています。
サイトメガロウイルスに感染したことのない妊婦が、サイトメガロウイルスに初感染した場合、胎内で赤ちゃんがこのウイルスに感染する率は約40%といわれています。かならずしも感染しても症状が出るわけではありませんが、感染した赤ちゃんの約24%は、低出生体重、小頭症、出血斑、血小板減少、肝脾腫、黄疸、難聴、脈絡網膜炎などの症状が現れます。さらに、症状がなくても、頭部の精密検査で、脳内石灰化や脳室拡大などの脳の異常が見つかる赤ちゃんも約9%みられます。
さらに生まれた時は異常が見られなくても、成長するに従い、進行性の難聴や発達障害に気付かれるお子さまも少なくありません。
●先天性CMV感染症の頻度
それでは、先天性サイトメガロウイルス感染症の赤ちゃんは、どのくらい生まれてきているのでしょうか。
厚労省の研究班によれば、先天性サイトメガロウイルス感染症の頻度は
①サイトメガロウイルスの先天感染の頻度は0.31%、すなわち新生児の1人/300人はサイトメガロウイルスに感染して生まれてきています(感染していますが、かならずしも症状を持っているとは限りません)。
②このうち、症状を持って生まれてくる、先天性サイトメガロウイルス感染症児は、新生児の1/1000人と報告されています。
この報告によれば、症状がある先天性サイトメガロウイルス感染症児は、ダウン症(1人/1000人)と匹敵する出生数になっています。決して珍しい病気ではありません
●先天性CMV感染症の治療
先天性サイトメガロウイルス感染症の治療には、CMV高力価ガンマグロブリン製剤、ガンシクロビル、ホスカルネットなどを用います。
●先天性CMV感染症の予防
サイトメガロウイルスの感染を予防するワクチンはありません。そのため、サイトメガロウイルス感染症を防ぐには、日常的な注意が大切です。
特にサイトメガロウイルス感染症に抗体(免疫)を持たない妊娠している女性は、このウイルスに感染しないよう、妊娠中は特に十分な注意が必要です。サイトメガロウイルスに抗体のない妊婦は、子ども(特に集団生活を送っている、上の兄弟)の唾液や尿を介して接触感染するか、抗体陽性の夫から性行為で感染します。
そのため、妊娠中に感染しないためには、
①子どもの唾液、尿に注意し、石鹸で頻回に手を洗う。子どもとスプーンや箸を共有しない(唾液から感染しないため)。おむつを換えたあとには良く手を洗う(尿から感染しないため)。
②性行為のさいには、コンドームを使用する(精液から感染しないため)。
が必要です。
参考: 国立感染症研究所 IDWR:感染症の話 サイトメガロウイルス感染症
横浜市衛生研究所:サイトメガロウイルス感染症について
神戸大学 先天性サイトメガロウイルス感染症対策のための妊婦教育の効果の検討、妊婦・新生児スクリーニング体制の構築及び感染新生児の発症リスク同定に関する研究
先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症患者会「トーチの会」
ロタウイルス胃腸炎(冬季乳児下痢症)
冬季乳児下痢症とは、ロタウイルス、腸管アデノウイルス(アデノウィルスのうち、40,41型の血清型をこう呼びます)、ノロウイルス(以前はSRSV=小型球形ウイルスなどとも呼ばれていた)、アストロウィルスなどのウイルスによる感染性胃腸炎の総称です。冬場に乳幼児が感染し、激しい水様便と嘔吐を繰り返し、脱水が進行し、入院になることもまれではない病気です。約1/3に白色便を伴うため、白色便性下痢症(白痢)、乳児嘔吐下痢症などとも呼ばれます。吐いて下痢をし、脱水に陥りやすいので、特に水分補給に注意しなければなりません。
冬季乳児下痢症の半分以上はロタウイルスの感染によるものなので、ここではロタウイルスによる冬季乳児下痢症についてお話しします。(ノロウィルスについては、次の章をお読み下さい)
●冬季乳児下痢症の症状
潜伏期は1~3日で、感染経路はウイルスの含まれた糞便をさわった手からうつる経口感染です。
症状は、突然の嘔吐で始まります。嘔吐は最初の1~2日はかなり激しく、数十回におよび、全く物をうけつけない重症例もあります。嘔吐は2~3日で落ち着きますが、下痢が嘔吐にやや遅れて出現し、最初は軟便が1日数回ぐらいなものの、1~2日で数十回に悪化し、便の色も白色からクリーム色のシャーシャーの水様便になります。約1/3に米のとぎ汁のような白色便がみられます。熱は38℃から39℃ぐらいまで出ることもありますが、微熱ですむこともあります。せき、鼻汁などのかぜ症状を伴なうお子さまもいます。
最初の2~3日が症状のピークで、激しい下痢、嘔吐による脱水症のため、外来点滴をしたり、入院加療が必要になるお子さまもいます。その後、便の状態は次第に改善し、回数もだんだん減り、7~8日で回復します。
下痢がひどく、腸の粘膜が傷害されると、腸の粘膜から分泌される乳糖を分解する酵素が出にくくなり、糖分を吸収できなくなることがあります(続発性乳糖不耐症という)。そのため、乳糖を含む普通のミルクを飲ませていると、下痢が長引くことがあります。
●冬季乳児下痢症の合併症
合併症としては、けいれんをおこすことがあります。しかし、予後は良く、特に後遺症などを残すことはないといわれています。
●冬季乳児下痢症の診断
ロタウイルス胃腸炎は便の性状から診断は比較的容易です(ノロウィルス胃腸炎でも白色便がみられることがあります)。また、便中のロタウイルス抗原を調べる迅速検査キットを使用すると5分で診断が可能です。
●冬季乳児下痢症の治療
治療は、脱水に陥らないよう、十分な水分補給をこころがけます。(嘔吐・下痢のホームケアについては、嘔吐・下痢の時にを参照なさって下さい)
嘔吐に対しては、吐き気止めの坐薬(ナウゼリン坐剤)を使用します。下痢に対しては、整腸剤(乳酸菌製剤)、吸着剤(アドソルビン)を症状の程度に応じて投与しています。ロペミン(ロぺラミド)は6か月前の乳児には使用できません。
続発性の乳糖不耐症が疑われるときは、乳糖分解酵素(ミルラクト)をミルクに混ぜたり、乳糖の入っていないミルク(ラクトレスミルク、ボンラクト)を飲ませると、便の状態が改善することがあります。
水分とイオン(電解質)の補給のために、経口輸液製剤として、ソリタT2顆粒を処方することもあります。OS1やアクアライトORSなどの経口補水液もお勧めです。大人用のイオン飲料(ポカリスエットなど)は、電解質は少なく、糖分が多いので冬季乳児下痢症の治療には不適です。
2011年11月より、ロタウイルスワクチンが使用できるようになりました。このワクチンは重症ロタウイルスの92%、ロタウイルス全体の79%の発病を抑えるといわれており、ワクチンの幅広い接種により、ロタウイルス感染症の制圧が期待される状況になっています。使用できるワクチンは、ロタリックス、ロタテックの2種類があります。
●登校・登園基準
登校・園基準は、特にありません。しかし、ロタウイルスは下痢症状が出る直前から下痢症状がおさまって2日後ぐらい(約8日間)まで、便中に検出されるといわれます。したがって、ロタウイルス感染症のお子さまのお世話をする時は、排便の後始末、オムツを触った後は、必ず十分な手洗いが必要です。オムツもすぐ処分しましょう。
ノロウイルスは少し前までは、ノーウォーク様ウイルス(NLV)、または電子顕微鏡で見た形から小型球形ウイルス(SRSV=small round-structured virus)とも呼ばれていました(カリシウィルスという仲間に属します)。冬場に乳幼児が感染し、激しい水様便と嘔吐を繰り返す、冬季乳児下痢症の原因ウィルスの一つで、11月から12月はノロウィルス、1~2月はロタウイルスが多いといわれています。また、感染力が強く、食品を介して感染が広がるため、食中毒の病原体にも指定されています。
●ノロウィルス胃腸炎の症状
潜伏期は1~3日で、感染経路はウイルスの含まれた糞便をさわった手からうつる経口感染や汚染された水や食品を介した経口感染です。
症状は、突然の嘔吐で始まります。嘔吐は最初の日はかなり激しく、数十回におよびますが、ロタウイルスよりは軽く、1日ぐらいでおさまります。一方、下痢は腹痛を伴ない、シャーシャーの水様便になりますが、2~3日で軽快します。熱は38℃ぐらいの微熱が出ることもあります。
●食中毒としてのノロウィルス胃腸炎
ノロウィルスは食中毒の病原体に指定されています。ノロウィルスはヒトの体外でも安定で、感染者の糞便で汚染された飲料水、貝(貝は水中に拡散したノロウィルスを体内に高濃度に蓄積するといわれます)を口にすると発病します。特に生がきや加熱が不充分な貝類から食中毒がよく報告されています。症状は、嘔吐、下痢、腹痛です。
●ノロウィルス胃腸炎の治療
治療は、脱水に陥らないよう、十分な水分補給をこころがけます。(嘔吐・下痢のホームケアについては、嘔吐・下痢の時にを参照なさって下さい)
嘔吐に対しては、吐き気止めの坐薬(ナウゼリン坐剤)を使用します。下痢に対しては、整腸剤(乳酸菌製剤)、吸着剤(アドソルビン)を症状の程度に応じて投与しています。ロペミン(ロぺラミド)の使用は勧められておりません。
また、水分とイオン(電解質)の補給のために、経口輸液製剤として、ソリタT2顆粒を処方することもあります。経口補水液(OS1など)も勧められます。大人用のイオン飲料(ポカリスエットなど)は、電解質は少なく糖分が多いため、冬季乳児下痢症の治療には不適です。
また、貝類はよく加熱してから食べることをお勧めします。
●登校・登園基準
登校・園基準は、特にありません。しかし、ノロウィルス胃腸炎は冬場に保育園などで集団発生する例が珍しくありません。ノロウィルスは下痢症状がおさまって7日ぐらいはやはり便中に排泄されるため、トイレ(オムツ替え)の前後、食事、調理の前には必ず石鹸で手をよく洗いましょう。
また、大人にも感染するため(大人は腹痛、下痢が多い)、お腹の調子が悪い大人が食事を作ることは好ましくありません(食中毒の原因になります)。調理の仕事についている人では、感染の有無を調べるノロウイルスの迅速検査も受けることも可能です。
ヘルペス性歯肉口内炎は単純ヘルペスウィルスⅠ型の初感染で起こる病気です。1~4歳の乳幼児に多くみられ、口内、歯ぐきや口唇周囲に強い痛みを伴う小水疱が出現します。
●ヘルペス性歯肉口内炎の症状
潜伏期間は、通常2~7日です。
症状は突然40℃近くの高熱で発病し、よだれがひどく、食事がとれなくなります。夜泣きもひどく、赤ちゃんは一日中不機嫌になります。歯ぐきは赤く腫れあがり、さわると出血します。口内にもアフタが点々とみられます。唇の周りにもたくさんの水疱ができることがあります。高熱が5日から1週間続き、食事が取れず、赤ちゃんは大変苦しみます。
2度目以降の感染は口唇ヘルペスと呼ばれ、かぜの回復期や疲れ、ストレスなどにより、唇周囲に小水疱が出現します(症状は初感染に比べ、はるかに軽い)。
●ヘルペス性歯肉口内炎の治療
通常は痛み止めとして、アセトアミノフェンを服用したり、アフタ用の軟膏を塗って様子をみます。症状が重い場合は、抗ヘルペスウィルス剤(アシクロビル=ゾビラックス)が投与されます。水分も取れず、高熱が続き脱水に陥っている時は、輸液を行ないます。
食事は酸味のあるもの、脂っこいものは避け、のどごしのよいものを少しずつ与えます。脱水を予防するために、経口補水液などを少量、頻回にとらせます。
●登校・登園基準
登校・登園基準としては、熱が下がり、口内炎や唇周囲の水疱が消失すれば登校・園は可能です。ただし、合併症がみられることもあるので、高熱、けいれん、意識障害には気をつけて下さい。